仕事と心のDiary

デトックスのための文章

Filmarksで過去の歴代アカデミー賞を振り返る。

ジョージ・ガーシュウィンの『Summertime』がずっと好きで、最近もよく弾いています。1930年代の黒人街を舞台にしたオペラ『ポーギーとベス』で、男達が賭博を楽しむ傍ら、女が赤ん坊を抱きながら歌った子守歌。アカデミー賞を受賞した映画『グリーンブック』で描かれたのよりも少し前ぐらいの時代の話です。

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『グリーンブック』はとても心に残っている映画で、2019年のアカデミー賞発表はとにかく興奮しました。『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー スター誕生』『ROMA』と良作が並んでいたし、同性愛、精神疾患、人種差別などマイノリティをテーマにした作品が多かったからです。(ちなみに『女王陛下のお気に入り』の良さは未だに理解できず。演者の顔ぶれが一流なだけのような気がしてしまう…)この年に同じく作品賞にノミネートされていた『ブラック・クランズマン』は劇場で観られずに終わってしまったけど、これは1970年代のKKKと呼ばれる白人至上主義団体の潜入捜査の話で、当時結構話題になっていた記憶があります。

 

その翌年2020年は、ポン・ジュノ監督って凄い人だった!の年でした。『パラサイト 半地下の家族』は本当に面白い映画だった。ジャンルが絞れないのです。最初からコメディの要素が強いのに、大枠に韓国社会の根強い格差というテーマがあり、実はとてもシリアスでセンシティブな映画。金持ちに家族ごと”寄生”することを厭わなかった一家の主が、どれだけの良家に寄生して美味しい食事をしようと決して超えられないものを突き付けられるシーンというのがあって。そこからの絶望感と「地上」「地下」のシーンの作りが凄い。最初笑わせてくれてたじゃん、という監督への良い意味での不信感。

 

その同年は『JOKER』にもハマってしまい、ホアキン・フェニックス見たさに三回も劇場へ足を運びました。その後もとにかくホアキンください状態になってしまい、ホアキンが自分のプライベートの数年を使ってドッキリを仕掛けるという『容疑者、ホアキン・フェニックス』というふざけたドキュメンタリーまで観たりしました。申し訳ないんだけど、同年の作品賞ノミネート『フォードvsフェラーリ』、『アイリッシュマン』、今アカデミー賞のサイト見ても全然覚えてない。こんなのあったっけ(失礼)?

ジョジョ・ラビット』は観たのですが、ナチスホロコーストがどうにも得意ではなく、あまり印象に残るものではありませんでした。昔、受験勉強真っ只中に観た『戦場のピアニスト』で日常生活が精神的にきつくなった思い出があるからかもしれません。

 

『JOKER』は昔から何度もリメイクされているけど、観るのは2019年が初めてで。主人公アーサーを演じたホアキンは、アカデミー賞のスピーチで「声なき者の声を伝えることが役者の使命」というメッセージを発信しました。彼自身ヴィーガンで動物の権利を普段から訴えていたり、また彼の父親はアーサーと同じような過去を持ち、兄は薬物乱用によってホアキンの目の前で亡くなった。アーサーの狂気と脆さは、ホアキン自身のバックグランドに基づいているからこそ、観る側に訴えるものがあったのだと思います。

 

そういえば、2018年のアカデミー賞は私にはよく理解ができませんでした。作品賞など4冠を達成したのが、『シェイプ・オブ・ウォーター』だったのです(最も競っていたのは確か『スリー・ビルボード』だった)。その年に私が面白いと思ったのは、アフリカ系アメリカ人が白人の家に招待され、そこで微かな違和感を感じる所から物語が始まる『ゲット・アウト』。この違和感は何と表現するかが難しいんだけど、『注文の多い料理店』を読んでいる時の不気味さに似ているのです。そう、ホラーといっても「恐怖」というよりは「気色悪さ」。そして、黒人差別を題材にした作品はほとんどが暗黙のうちに「白人>黒人」という構図を持っているんだけど、この作品は実はその逆をベースに描かれています。

 

シェイプ・オブ・ウォーター』の話に戻ると、私の頭ではこの映画をよく掴むことができず、その後ギレルモ・デル・トロ監督の作品をリベンジしようと『パンズ・ラビリンス』を観たんだけど、結局分からなかったし気持ち悪いしで精神的に吐きそうになった。『シェイプ・オブ・ウォーター』の根底には多分、「言葉が通じない世界の愛」というテーマがあって、その相手は今後人類が出会うかもしれない異星人や未確認生物、もっと狭い意味では言語が異なる相手、または言語が同じでも境遇や立場によってそれがうまく伝わらない相手、そうした状況での愛の役割というのを描きたかったのだと思うようにしています。

 

そういえば『スリー・ビルボード』について、Filmarksレビューの中に「終わったあと、え?って感じだった」というようなコメントがあったんだけど、私も当時確かそんな印象だったのを覚えています。Filmarksでは平均スコアが4.0もあるし、主演のフランシス・マクドーマンドは主演女優賞までとったというのに、この映画の印象があまり残っていないのです。ただ、フランシスが演じた母親が最高に強くて格好いい女性だったということだけ。どちらかというと、同年の『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の方が印象に残っています。マーゴット・ロビーって、男に泣かされても街で暴れても何やってても可愛い。

 

ガーシュウィンの流れに戻ると、黒人を描いた作品でやっぱり美しいのは『ムーンライト』です。2017年のアカデミー賞受賞作ですが、この年のノミネート作品ラインナップも2019年に匹敵するほど好みが揃っていました。まず、ミュージカル一切NGだった自分が初めてそのファンタジーに魅了されたのが『ラ・ラ・ランド』。ボンネットの上でダンス、全然あり。ピアニストのセブがミアのために弾くあのテーマなんて、何度弾いたか分からないぐらい弾きました。他は『LION ライオン 25年目のただいま』『ドリーム』、そして『メッセージ』(日本では、未確認生物との交信船?の形がお菓子のばかうけに激似で話題になった映画)などで、やっぱりこの年も人種や国籍などのテーマが多かったように思います。

 

『ムーンライト』には、「黒人は月明かりの下でブルーになる」という言葉が出てくるのですが、それまでそれは私の人生で考えたこともなかった現象でした。それは肌の色だけでなく、マイノリティ全般にいえることなのではないかとも思います。ブルーの輝きを純粋に見てくれる世間というのは、幻にも近い。世間にブルーを見せることすら簡単ではない現実を抱えて生きる人達の存在。見えづらいものが浮かび上がってくるような作品でした。Filmarks、なぜスコア低い。

 

黒人を描いた映画の中でも特に過酷なものとして、『それでも夜は明ける』があります。ブラピはこの映画の時から出演のみならず製作指揮を取っていたんだけど、『ムーンライト』でも指揮を取っています。幅広すぎるブラピ。ホアキンの「声なき者の声」ではないけれど、当時声を上げられなかった人々の声が今の時代に歌劇として、映画として届けられることは素晴らしい。役者って本当にメッセンジャーなんだなと感じます。

 

そんな感じで毎年楽しみにしているアカデミー賞なのに、今月予定されている第93回のノミネート作品、ひとつも知っている作品がない。去年は劇場では3本ぐらいしか映画観られなかった。最近はNETFLIXとAmazonPrimeで韓国ドラマ一気見とかしてしまって、チソンの演技力が凄いので惹きこまれてしまい、『キルミー・ヒールミー』『秘密』と観て、今『被告人』というひたすらしんどいドラマを鑑賞中。チソンは一時期、精神的な病を患っていた時期もあるそうなのですが、彼の演じる役はどれ一つとして同じに見えないので、そういう繊細さが人を魅了するのだろうと感じます。そして、彼もマーゴット・ロビーと同じ。ぐちゃぐちゃに泣いて鼻水垂れても女装しても、追い詰められて顔色悪くても、何しててもほんと女の子みたいに可愛い。

 

また例年通り、アカデミー賞で盛り上がれる年が早く来るといいな。去年は、春に上映されると言われていた『ボヘミアン・ラプソディ』オスカー、ラミ・マレックの007を楽しみにしていたのです。ラミの『MR.Robot』のエリオットは一番好きだけど、『バスターの壊れた心』は『容疑者、ホアキン・フェニックス』並みに狂った作品だった。2019年の時のような高揚をまた味わいたいです。